なれる!SE

2012.08.13  渡邉達朗


夏海公司著「なれる!SE」シリーズは、なかば騙されるようにブラックなシステム開発会社に就職してしまった新米SEが、さまざまな仕事を通じて成長する姿を描いた小説だ。本書はライトノベルに属するため、上司の外観が女子中学生くらいにしか見えないとか、いくつかファンタジーな要素が加えられているが、登場する人物や世界観にはリアリティが漂っている。

SE業務にフォーカスしていることもあって、やや読者を選ぶ傾向が強いようにも感じられるが、恋愛要素もあるので専門知識を持たない人でも楽しめると思う。主人公が有能すぎる感じはするものの、激務の中で同僚と一緒に徹夜で作業することが意外と楽しかったり、新しい知識を憶えることに夢中になったりする部分は、だれでも共感できるのではないだろうか。

休日出勤や深夜残業は当たり前というワーカホリックな職場や、社長が一人で営業していて無茶ぶりしてくるといった話は、以前自分が勤めていた会社ともダブるので思わず苦笑してしまう。ただ、周りから嫌われがちなワンマン社長にもきちんと役割があり、同じように営業して仕事を取ってくることがどれほど大変なのかも、きちんとページを割いて描かれている点は好感が持てた。

この業界では上流・下流といったレイヤーの話がよく出てくるが、あるシステムを動かすためには全てのレイヤーがきちんと機能しておらねばならず、どの技術要素が偉いとか偉くないとかいう問題ではない。そういう点もカスタマーエンジニアの仕事を通じて丁寧に描かれており、全国行脚する中で新しい価値観に出会う主人公の姿は微笑ましかった。

他にもプロジェクトマネージメントをいきなり任される話など、基本的に楽しく読んでいたのだが、最新刊である7巻を読むと印象はガラリと変化する。劣悪な環境での客先常駐がテーマの本巻は、法律的にもグレーなこの業務形態において、人間がどのように扱われるのかをかなりリアルに描いている。作者が本当に書きたかったのはこれだったのではないかと思われるほどだ。

これまでも嘘とは言えないがややオーバーな演出があり、それが笑えるポイントでもあったのだが、客先常駐編はひたすら心が冷たくなっていく感じだ。登場人物の非人道的な振る舞いについても、背景のビジネスロジックがしっかりしている分、かなりキツい。

主人公の機転と優秀な先輩スタッフのフォローのおかげで、これまでは胸のすくような展開を楽しむことができたこのシリーズだが、今回主人公はいい所がまるでなく、ただ世間知らずだったことを噛み締めたまま終わりを迎える。さらに、初めて次巻へと続くような終わり方となっている点もすごく印象的だった。謎はまだまだ残っているし、これからどんな風に化けるのかが楽しみだ。

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なれる!SE

2012.8.13

小説