金田一耕助ファイル3 獄門島

2014.05.04  渡邉達朗

獄門島

獄門島――江戸三百年を通じて流刑の地とされてきたこの島へ金田一耕助が渡ったのは、復員船の中で死んだ戦友、鬼頭千万太に遺言を託されたためであった。『三人の妹たちが殺される……おれの代わりに獄門島へ行ってくれ』瀬戸内海に浮かぶ小島で網元として君臨する鬼頭家を訪れた金田一は、美しいが、どこか尋常でない三姉妹に会った。だが、その後、遺言通り悪夢のような連続殺人事件が巻き起こる。トリックを象徴する芭蕉の俳句。金田一に託された遺言が及ぼす波紋とは?

後世の推理作家に多大な影響を与え、日本ミステリの最高傑作とも称される横溝正史の長篇推理小説「獄門島」。昭和22年1月から翌年10月まで雑誌「宝石」に連載されたもので、名探偵・金田一耕助シリーズとしては2番目の作にあたる。時系列としては「百日紅の下にて」の直後ということになるが、執筆順は「本陣殺人事件」の次である。

昭和21年9月、金田一耕助は瀬戸内海に浮かぶ獄門島へ向かう。その島は古くから海賊の根拠地であり、江戸時代には流刑の場でもあった。金田一の胸中には復員船の中で死んでいった戦友・鬼頭千万太が遺した「おれがかえってやらないと、三人の妹たちが殺される……」という不吉な言葉が渦巻いていた。

獄門島に到着した金田一がもたらした千万太戦死の知らせは、島一番の網元である本鬼頭のみならず、島全体に大きな衝撃を与える。当主である父の与三松は気が触れた状態で座敷牢に幽閉されており、千万太は実質的な本鬼頭の跡継ぎだったからだ。

千万太には月代・雪枝・花子という3人の異母妹がいたが、みな父親同様に精神を病んでおり、彼女たちに鬼頭家の財産が渡るのは先代・嘉右衛門の望むところではなかった。そして間もなく、千万太が恐れていた三姉妹を巡る惨劇が現実のものとなるのであった……。

本作は横溝作品の中でも「見立て殺人」ものとして高い人気があり、作中に用いられた俳句を詠むと、美しくも残酷な殺人風景がまざまざと思い浮かぶ。用いられたのは江戸時代の俳聖・松尾芭蕉とその弟子・宝井其角の残した俳句。和歌の書かれた紙が貼ってある衝立や梅の古木、妖しげな祈祷所など印象的なものがたくさん出てくるが、特に千光寺の釣鐘を使った見立ては忘れられない。

鶯の身をさかさまに初音かな(宝井其角)
むざんやな冑の下のきりぎりす(松尾芭蕉)
一つ家に遊女も寝たり萩と月(松尾芭蕉)

また、この作品は鬼頭早苗にほのかな恋心を抱く、若き金田一耕助の姿が描かれていることでも知られている。事件を解決した金田一は、東京へ出る気はないかと早苗を誘うのだが、その答えは「島で生まれたものは島で死ぬ。それがさだめられた掟なのです。でも……ありがとうございました。もうこれきりお眼にかかりません」という毅然としたものだった。

巧妙な伏線、奇抜なトリック、そして意外な犯人。「獄門島」はミステリの面白さをたっぷりと備えた素晴らしい作品だ。市川崑監督の映画で本作をご存じの方も多いかと思われるが、原作は犯人が異なるので、ぜひご一読いただきたいと思う。

<登場人物>
鬼頭嘉右衛門 … 本鬼頭の先代。太閤と崇められていた。故人。
勝野 … 嘉右衛門の妾。
鬼頭与三松 … 本鬼頭の当主。精神を患い座敷牢に入っている。
お小夜 … 与三松が惚れて妾にした元旅回りの女役者。故人。
鬼頭千万太 … 与三松の息子。復員船で死んだ金田一の戦友。
鬼頭月代 … 与三松とお小夜の長女。千万太の異母妹。
鬼頭雪枝 … 与三松とお小夜の次女。千万太の異母妹。
鬼頭花子 … 与三松とお小夜の三女。千万太の異母妹。
鬼頭一 … 本鬼頭分家。両親は既に他界。近々復員との連絡有。
鬼頭早苗 … 一の妹。千万太の従妹。金田一が心を寄せる。
鬼頭儀兵衛 … 網元・分鬼頭の当主。本鬼頭と対立している。
鬼頭志保 … 儀兵衛の後妻。潰れた網元・巴屋の娘。
鵜飼章三 … 分鬼頭に居候する美しい男。復員軍人。
荒木真喜平 … 獄門島の村長。横に平たい感じの男。
村瀬幸庵 … 獄門島の漢方医。鶴のようにやせている。
了然 … 千光寺の和尚。島では網元の上に君臨する存在。
了沢 … 千光寺の典座。無愛想だがたいへん親切な若い僧。
竹蔵 … 潮つくりの名人。先代から本鬼頭に出入りしている。
清公 … 床屋の親方。金田一に獄門島のことを語る。
清水巡査 … 獄門島の駐在。無精ひげをはやした好人物。
磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一とは旧知の仲。
金田一耕助 … 鬼頭千万太の死を伝えるため獄門島へ渡る探偵。

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