いいことなのか
それとも、わるいことなのか、わからない
でも、多くの人間がそうであるように
俺もまた、自分の生まれた国で育ったそして、ごく普通の中流家庭に生まれつくことができた
だから、貴族の不幸も、貧乏人の苦労もしらない
別に、知りたいとも思わない子供のころは、水軍のパイロットになりたかった
ジェットに乗るには、水軍に入るしかないからだ
速く、高く、空を飛ぶことは何よりも素晴らしく、美しいでも、学校を卒業する2ヶ月前
そんなものにはなれないって事を成績表が教えてくれた
だから、宇宙軍に入ったんだ
森本レオの印象的なナレーションで幕を開けるこの映画。のちに「新世紀エヴァンゲリオン」などで有名となるアニメ制作会社ガイナックス最初の作品であり、興行的には成功しなかったものの、そのクオリティは今日でも高く評価されている。あらすじは以下のとおり。
「失敗ばかり」「なにもしない軍隊」と揶揄され、世間に落第軍隊として見下されているオネアミス王立宇宙軍。人工衛星も満足に打ち上げられない軍に、シロツグ・ラーダットの宇宙への夢も遠ざかるばかり。そんなある日、街で神の教えを説く不思議な少女リイクニ・ノンデライコと出会ったことで、彼は仲間の反対にもめげず、宇宙パイロットに志願してしまう。かくして王立宇宙軍の、威信と名誉をかけた有人宇宙船打ち上げ計画が開始された。
原案・脚本・監督は当時24歳の山賀博之が担当。スタッフの平均年齢も24歳であるというのは驚きだ。助監督に赤井孝美、樋口真嗣、増尾昭一。キャラクターデザインを貞本義行が担当。作画監督として庵野秀明、飯田史雄、森山雄治を起用するなど、いずれも当時はほとんど無名だったわけだが、今では考えられない豪華さである。藤原カムイや江川達也もかかわっていたというと、ビックリする方もいるのではないだろうか。
この映画の最大の特長を挙げるとすれば、手描きアニメとは思えないほど緻密に描き込まれた映像美だろう。CGを使うのが一般的になった今だからこそ、ロケット発射シーンで氷が崩落する場面など見惚れてしまう。架空世界にリアリティを持たせるため、背景や小物であってもしっかり考証し描かれている様も圧巻だ。棒状のコインや券売機、巨大な路面清掃車、前翼型のジェット戦闘機、敵国の言語などにその徹底したこだわりが見て取れる。
また、本作品は主人公シロツグの声を森本レオが担当していることだけでなく、音楽監督を坂本龍一が務めている点でも有名。彼が作曲したメインテーマは非常に印象的で、作品世界にもよく合っていた。
なお、配給元の意向などで「オネアミスの翼」というタイトルが付けられたが、制作サイドからは不評でだんだん使われなくなっており、同名のイメージソングも作られたものの本編では使用されていない。
自分にとって「王立宇宙軍」は大好きな映画というだけではなく、いろんな意味で忘れられない作品となっているのだが、その一つに初めて購入したレーザーディスクだったという点がある。
貴重なイメージボードや42曲も収録されたサウンドトラック目当てに「王立宇宙軍メモリアルボックス」を購入したのだが、LD3枚組(CAV5面、CLV1面)という構成であるため、30分ごとにディスクを入れ替えねばならず非常に面倒であった。(ちなみに、このページ上部にあるイラストはメモリアルボックスに収録されていたライナーノーツの表紙)
もう一つは本作の続編にあたる「蒼きウル」という作品についての思い出だ。「新世紀エヴァンゲリオン」の制作前に企画されたものだが、93年に凍結されたまま現在も公開されていない。続編とは言ってもキャラクターなどに繋がりはなく、VTOL(垂直離着陸)戦闘機を使った特殊部隊のお話である。
この「蒼きウル」の関連作品としてMicrosoft Combat Flight Simulator用のアドインが作られる際、制作スタッフとして関われることになった。大友克洋、小林誠、貞本義行、士郎正宗、山下いくとなど有名クリエイターが手掛けた戦闘機デザインを3D化し収録するというものであったが、自分の力不足により他のスタッフに多大な迷惑をかけてしまったことが強く記憶に残っている。
しかしながら、設定資料、絵コンテ、イメージボードなど、公開されていないものや新規に描き起こされたもの含め、様々な内部資料を拝見することができたのは幸甚だった。あのような機会を与えていただいたことに、ただただ感謝している。