amazarashi

2015.08.29  渡邉達朗

ここ最近amazarashiの曲をずっと繰り返し聴いている。日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝しだが“それでも”というところを歌いたい。そんなバンド名の由来も素敵だと思う。

青森県むつ市在住の秋田ひろむが書く歌詞は独特で、文学的かつ生々しい言葉の数々が心に突き刺さる。影響を受けた作家に寺山修司と太宰治の名を挙げているのは、彼の詞を聴いた人であればなるほどと思うだろう。秋田ひろむ本人が人見知りなのと、詞の世界観を強調したいという理由で顔を隠していることも、ミステリアスな魅力に繋がっているかもしれない。

amazarashiの良さは歌詞だけではなく、メロディーラインやリズムにも光るものがある。自己の内面的葛藤や社会的批判などを綴った重苦しい言葉と、耳馴染みのよいサウンドの組み合わせが実に美しい。秋田ひろむの気持ちを込めた歌い方も心に深く響く。

YKBXこと横部正樹によるジャケットデザインやミュージックビデオも魅力的だ。謎のテルテル坊主などシンボリックなキャラクターをモチーフに起用したのも彼で、「夏を待っていました」のMVはその芸術性の高さが認められ、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で優秀賞を受賞している。

2010年のデビュー以来、リリースされたアルバムすべてがロングセールスを続けているamazarashi。アルバムの完成度が高いので、一つの作品としてまとめて聴いてもらえたらと思うが、以下では特に好きな曲をそれぞれのアルバムから紹介したい。

爆弾のつくり方

【爆弾のつくり方】
2010年6月9日に発売されたメジャーデビューアルバム。「一生消えない一行を。」というキャッチコピーがこのアルバムには実に相応しい。報われないことへの怒りや不満から生まれた、心の奥底をえぐるような鮮烈な言葉と美しいメロディー。現代の社会問題を幼少期の思い出に置き換えた「夏を待っていました」も素晴らしい曲だが、一番聴いてほしいのはアルバムタイトルにもなっている「爆弾のつくり方」だ。この詩が伝えてくるのは、誰かを殺す方法でもなければ、自殺する方法でもない。闇の中から一歩でも前に進もうとする希望の光である。

行き場の無いイノセンス イノセンス
今に見てろって部屋にこもって
爆弾を一人作る 僕らの薄弱なアイデンティティー
ひび割れたイノセンス イノセンス
こんなんじゃないって奮い立って
僕は戦う つまりそれが 僕等にとって唯一の免罪符

ワンルーム叙事詩

【ワンルーム叙事詩】
2010年11月24日に発売されたメジャー移籍2枚目のアルバム。コイン等で削ると隠された別の絵柄が見られる特殊なジャケットが採用されている。“正解でも 間違いでも それが分かるのはどうせ未来 今は走るだけ”と、死を意識しながらも懸命に生きることを描いた「奇跡」も大好きだが、一番心に残ったのは「クリスマス」という曲だった。タイトルから想像されるようなロマンチックなラブソングでは当然なく、飛んでいくミサイルを流星と見間違えた少女が願いを唱えるという、幻想的でもあり切なくもある話。たとえ錯覚でも、どんなに汚い世界だとしても、そこにある小さな幸せは尊い。

さあ祈ろうぜ世界の為に 救いようない僕らの為に
見てみろよ酷い世界だろ 今日は美しいクリスマス

アノミー

【アノミー】
2011年3月16日に発売。アノミーとは社会学で用いられる概念で、社会規範の動揺や崩壊などによって生じる混沌状態、あるいはその結果である社会の成員の欲求や行為の無規制状態をいう。寺山修司の「アダムとイヴ、私の犯罪学」がモチーフになって出来た曲「アノミー」も思わず口ずさみたくなる名曲だが、一番印象に残ったのは「ピアノ泥棒」だった。深夜泥棒に入った男がピアノを弾いて捕まってしまうという、オランダで実際にあった事件が元になっているこの作品。目を閉じて聴いていると、短編映画を観ているかのような気にさせられる。

このピアノを聴いて
どうだ僕の取って置きの 自慢のクラシックバラード
流れ出すのは 美しい日々の調べ
その憂いはまるで帰らぬ日々の後悔
ピアノを聴いて
どうせ野垂れ死ねだけの くそったれの人生
生きるために盗んで 盗むために生きてきた
拍手一つだって貰えないステージで

千年幸福輪

【千年幸福輪】
2011年11月16日に発売された1stフルアルバム。初めて聴いたとき、胸が締めつけられるような感覚を憶えた「空っぽの空に潰される」が収録されている、非常に完成度の高い作品。恒久的な欠落を愛してこその幸福。足りない部分、欠点、それらを愛してこそ毎日楽しく生きられるんじゃないかという気持ちが込められている。

楽しけりゃ笑えばいいんだろ 悲しい時は泣いたらいいんだろ
虚しい時はどうすりゃいいの? 教えて 教えて
名残惜しさも無くさよなら 巡り巡る季節は素っ気無い
それに何を期待すりゃいいの? 教えて 教えて
空っぽの空に潰される

ラブソング

【ラブソング】
2012年6月13日に発売されたミニアルバム。これまでと比較して明るくポップな曲調が多いものの、タイトルから想像出来るような、愛だの恋だのを軽薄に歌った曲は一曲もない。東日本大震災直後に詩として発表されていた「祈り」を筆頭に、震災以降の社会状況が強く反映されている。ラブソング至上主義に対しての皮肉たっぷりに“愛を買わなくちゃ 急いで買いに行かなくちゃ”と歌う表題曲も捨てがたいが、青森に多くある原発とその関連施設についての歌「ハルルソラ」はぜひ聴いてほしい。アルバムの中でも最も爽やかな曲調だが、その詩に込められた思いは胸にせまる。

風の吹く先に何もないよ 陽が沈む先に何もないよ
僕らが望む答えは きっと無いよ
ただ世界がそこにあるだけ 初めからそこにあるだけ

ねえママ あなたの言うとおり

【ねえママ あなたの言うとおり】
2013年4月10日に発売された、amazarashiの進化を感じるミニアルバム。本作の中で最も象徴的な楽曲が「ジュブナイル」だ。少年期を意味し、思春期の児童向け小説などを指す言葉を冠したこの曲。かつての自分と重ね合わせつつ、生きづらさと夢を抱える人たちを奮い立たせるような応援歌になっている。

君が君で居られる理由が
失くしちゃいけない 唯一存在意義なんだ
ここに讃えよ愚かなジュブナイル
最後の最後に 笑えたらそれでいいんだよ
物語は始まったばかりだ

あんたへ

【あんたへ】
2013年11月20日に発売されたミニアルバム。「まえがき」で始まり「あとがき」で終わるという、小説のような構成を取っている本作。このアルバムからは、秋田ひろむの当時の心境をリアルに歌った「匿名希望」を紹介したい。amazarashiに共感し自身を投影していたファンは“僕は君の代弁者じゃない”という歌詞に衝撃を受けたようだが、これは決して冷たく突き放すために使われた言葉ではないと思う。悪あがきでもいいから、自分の力で立ち向かうことが大切なんだというメッセージが込められていると感じた。

悩み多き君の 日々に平穏を
持たざる者には 悪あがきの力を
痛み多き君の 明日に光を
僕は君の代弁者じゃない 匿名を希望

夕日信仰ヒガシズム

【夕日信仰ヒガシズム】
2014年10月29日に発売された2ndフルアルバム。文句なしの名盤。“僕らはいつも雨曝しで”という歌詞が印象的な「もう一度」など素晴らしい曲がいっぱい詰まった本作だが、1つだけ紹介するのであれば「スターライト」を挙げたい。秋田ひろむの同名の小説と関連しており、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材に、絶望の中から希望へ向かって進み出そうとする姿を描いた内容となっている。

夜の向こうに答えはあるのか それを教えて スターライト
失望 挫折うんざりしながら それでも 何かを探してる
近づけば遠くなるカシオピア 今は笑えよ スターライト
いつか全てが上手くいくなら 涙は通り過ぎる駅だ

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2015.8.29

音楽