大迷宮

2016.08.28  渡邉達朗

大迷宮

「あっ、ベッドの天井が!」滋の叫び声に振り向いた謙三は、思わず息を呑んだ。剣太郎少年が寝ている箱形ベッドの天井が、音もなく降りてきたのだ。二人は慌てて剣太郎を助け出そうとしたが、もう遅かった……。サイクリングの途中、夕立にあった立花滋少年と従兄の謙三は、古びた洋館に泊めてもらった。奇怪な造りをしたその建物には、10年前、行方不明になった世界的なサーカス王の遺児、剣太郎が家人と共に住んでいた……。

「大迷宮」は横溝正史が雑誌「少年クラブ」に昭和26年1月から1年間にわたり連載した少年探偵小説。前作「怪獣男爵」では金田一は登場せず、怪獣男爵に対するのは等々力警部であったが、本作に至ってようやく本命である名探偵・金田一耕助が登場する。とはいえ金田一はあくまでサポート役という感じで、主人公である滋少年が大活躍するのが実にジュブナイルらしくて好ましい。

不気味な洋館や秘密の通路、金塊を隠した大迷宮、身体に埋め込まれた黄金の鍵、暗躍するどくろ男などサービス満点で引き込まれる。サスペンス要素も十分に盛り込まれており、読者を飽きさせない配慮が随所に感じられ楽しめた。

一方、子供向けとはいえあまりにも荒唐無稽な印象は否めない。また、瀬戸内海の孤島にある大迷宮に、何億円という値打ちのある大金塊が隠されているという舞台設定は非常に魅力的なのだが、作った本人が丁寧に道案内してくれるため、一度迷ったら二度と出られないというドキドキ感が無かったのは少々残念だった。

<登場人物>
立花滋 … 謙三に誘われ、軽井沢に避暑に来ていた中学生。
立花謙三 … 滋のいとこ。大学生。軽井沢で金田一と知り合う。
鬼丸剣太郎 … 古びた洋館の主人。滋と謙三を泊めてくれる。
鬼丸太郎 … 剣太郎の父。世界的サーカス王だったが行方不明。
鬼丸次郎博士 … 剣太郎の叔父。有名な科学者。ショウキひげ。
津川先生 … 剣太郎の家庭教師。足は悪いが射撃は上手。
ヘンリー松村 … タンポポ・サーカスの団長。
万力の鉄 … タンポポ・サーカスの力持ち。
鏡三 … タンポポ・サーカスから逃げ出した人気ブランコ乗り。
珠次郎 … 鏡三そっくりの少年歌手。軽気球で連れ去られる。
田代 … 青梅付近の森に着陸した軽気球を発見した老人。
怪獣男爵 … ゴリラの身体に天才生理学者の脳を移植した怪物。
北島博士 … 怪獣男爵の弟子。怪獣ロロの脳を男爵と入替えた。
音丸三平 … 幼いときから怪獣男爵にそだてられた無二の忠臣。
高木巡査 … 青梅で発見された軽気球に案内した若い警官。
井川刑事 … 等々力警部の部下。珠次郎を護衛する。
等々力警部 … 警視庁捜査一課所属の警部。金田一耕助の相棒。
金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。ご存知名探偵。

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大迷宮

2016.8.28

横溝正史(金田一耕助)