多くの人にとって重要なのは、名文を書くための技術や心がまえではなく、説得力のある、わかりやすい文章を書ける技術だ。この本で著者は、「慣用句」「常套句」「決まり文句」「紋切り型」などと呼ばれ忌避される、月並みな表現を使いこなすことの重要性を訴えている。
「短文を意識する」「文の単位(文節)は長い順に並べる」「読点に敏感になる(読点が少なくてすむ文章を心がける)」「段落の構成や論証の仕方に気を配る」などは基本中の基本だが、伝わる日本語を書く上では極めて有用だ。一例をひくと、以下を読めば「文節を長い順から並べた方」(2)が読みやすいことが理解できる。
(1)(彼は)/友人たちと/先週の日曜日に/桜の名所として知られる吉野を/訪れた。
(2)桜の名所として知られる吉野を/先週の日曜日に/友人たちと/(彼は)/訪れた。
途中に出てくる「ハ」と「ガ」の議論も面白い。「ハ」は文を飛び越して支配するという解説は、自分には新鮮だった。
メールがこれだけ普及した現在、文章を書くことは誰にとっても必要不可欠なスキルだが、外国語のようにきちんと学ぶ機会は少ない。本書を読めば、日本語を書く上で必要な技術を会得することができるだろう。そこから先は、読書の量やセンスが必要と思われる。
最後に、本多勝一著「日本語の作文技術」(朝日文庫)も紹介しておきたい。昔の同僚が文章を書くのに参考になると薦めてくれた本で、多大な影響を受けたのは間違いなく、今でも感謝している。本書と内容がかぶる部分もあるが、良書なので興味のある方は是非読んでいただきたい。