金田一耕助ファイル7 夜歩く

2014.05.06  渡邉達朗

夜歩く

「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂の写真が、古神家の令嬢八千代のもとにまいこんだ。三日後に起きたキャバレー「花」での佝僂画家狙撃事件。それが首なし連続殺人の発端だった。憎悪・貪欲・不倫・迷信・嫉妬と、どす黒い感情が深くからみあって、古神家にまつわる世にも凄惨な殺人事件の幕が切って落とされる……。

「夜歩く」は横溝正史の長編推理小説。昭和23年2月から11月まで雑誌「男女」に連載され、諸事情による5ヶ月の中断を経て、昭和24年12月まで「大衆小説界」誌に掲載された作品。「本陣殺人事件」「獄門島」に続く名探偵・金田一耕助シリーズ第3作にあたり、これらの作品は「八つ墓村」や「悪魔の手毬唄」などと合わせて岡山編と呼ばれる。

三流探偵小説家である屋代寅太は、大学で知り合った仙石直記から相談を持ちかけられた。キャバレーで画家・蜂屋小市を撃ったのは、腹違いの妹である古神八千代だと言うのである。狙撃の理由は八千代に届いた奇妙な手紙と佝僂の写真にあった。そこには「汝夜歩くなかれ」と、八千代の秘密である夢遊病のことが書かれていたのだ。

東京・小金井の屋敷で同居している古神家と仙石家のツールは岡山県鬼首村にあった。古神家は仙石家にとって主君にあたる関係だったが、当主だった古神織部が亡くなった今では、未亡人のお柳さまと直記の父である仙石鉄之進が両家の主導権を握っている。また、お柳さまと鉄之進は主従を越えた関係にあり、八千代は鉄之進のタネだと疑われていた。

発砲事件が縁で蜂屋と特別な関係になった八千代は、彼を古神家の屋敷に住まわせる。これに苛立っていたのが八千代の異母兄にあたる古神守衛。二人とも佝僂であり、体型が良く似ていた。不穏な空気に包まれた屋敷で、ある夜誰とも知れぬ佝僂の首なし死体が発見される。その血まみれの現場には、夢遊病で歩き回った八千代の痕跡が残されていた。

警察では守衛を犯人と見て行方を追っていたが、しばらくして守衛の首が見つかる。蜂屋の方も行方不明で事件が膠着したまま、古神家の関係者は避暑のため岡山の鬼首村へ移動した。直記に頼まれ寅太も鬼首村に出向くが、その車中で金田一耕助という風采の上がらぬ男と出会う。こうして役者が揃ったところで、再び惨劇の幕が開くのだった……。

結末の意外性に秀でた作品であり、横溝正史の最高傑作と評価する向きもある。私もこの犯人は最後まで想定できなかった。金田一の登場場面が少なく、他の代表長編に比べると派手さに欠けるからか映像化もあまりされていないが、伏線の張り方が非常に巧妙で、叙述トリックが好きな人にはたまらない一冊だと思う。

<登場人物>
屋代寅太 … 売れない哀れな三流探偵小説家。本作の語り部。
古神織部 … 古神家の先代。典型的な生活無能力者。故人。
古神お柳 … 織部の後妻。現在古神家を統率している。
古神守衛 … 織部の先妻の息子。佝僂。八千代に好意を寄せる。
古神八千代 … お柳の娘。夜歩く夢遊病をもつ破天荒な美女。
古神四方太 … 織部の異母弟。守衛の叔父。
仙石鉄之進 … 古神家の家老筋。お柳とは主従を越えた関係。
仙石直記 … 鉄之進の息子。寅太の大学時代の友人でパトロン。
蜂屋小市 … 美男子だが佝僂の新進画家。八千代と婚約した。
源造 … 古神家の使用人。
お藤 … 古神家の女中。
お喜多 … 作州の奥に住んでいる守衛の乳母。
妙照 … 足長村海勝院の尼。ときどき直記を訪ねてくる。
沢田警視 … 警視庁の担当警視。おだやかな人物。
磯川警部 … 岡山県警の警部。金田一耕助の相棒。
金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。ご存知名探偵。

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金田一耕助ファイル7 夜歩く

2014.5.6

横溝正史(金田一耕助)