はっきり言って、うちの会社はベンチャー企業ではない。現段階で何もイノベーションを起こしていないし、今後のプランが固まっているわけでもなく、当然IPOも狙っていないいからだ。従ってすぐ参考になるような知識が得られるとは思わなかったのだが、磯崎哲也氏の文章は好きで「isologue」はよく読んでいたため、初の著書である本書も読んでみようという気になった。
自分自身は以前上場しているベンチャー企業に少し関わったことがあり、そういった方面の知識が多少あるのでいい復習になったが、ベンチャー企業で働いたことが全く無い人にとっては、ベンチャービジネスの入口から出口までが理解できる良い本だと思う。
ベンチャー企業のファイナンスにおいては、IPO、バイアウト、監査、デューデリ、P/L、B/S、C/F、ストックオプションなどの雑多な知識が必要となるが、本書では個別に深く掘り下げて説明することを避け、全般的にわざと浅く、とても平易な文章で書かれている。「イケてる」を連発しすぎなきらいはあるが、これから起業しようという若者向けに書かれたことを考えると、正しい選択であると感じた。
なかでも、ベンチャー企業の事業計画には「予言の自己成就」的性質がある、という話は深く頷けるものがあった。単純に儲かる、儲からないという観点では事業計画の良し悪しは判断できない。経営者にマッチした事業計画であれば、自問自答しながら計画を見直す中で弱気になることなく、自信を持って周囲に説明できるだろう。それこそが「いい事業計画」だと思える。
その他、エンジェルやストックオプションの問題点など、これまで知らなかったことも学ぶことができ、ユーモア溢れる文章により読後感は極めて爽やかだった。自社もダークサイドに転がっていかないよう、留意していきたい。