金田一耕助ファイル9 女王蜂

2014.11.29  渡邉達朗

女王蜂

伊豆半島の南方にある月琴島に源頼朝の後裔と称する大道寺家が住んでいた。絶世の美女、大道寺智子が義父のいる東京に引きとられる直前、不気味な脅迫状が舞い込んだ。『あの娘のまえには多くの男の血が流されるであろう。彼女は女王蜂である……』 この脅迫状には、十九年前に起きた智子の実父の変死事件が尾を引いているらしい。智子の護衛を依頼された金田一耕助だが、その前で血みどろの惨劇が……。

「女王蜂」は昭和26年6月から翌年5月まで雑誌「キング」に連載された横溝正史の長編推理小説。戦後堰を切ったように発表された「本陣殺人事件」「獄門島」「犬神家の一族」などの名作群に続く、名探偵・金田一耕助シリーズの本格長篇である。

昭和26年5月。伊豆沖に浮かぶ月琴島には源頼朝の後裔と称する大道寺家があり、今年18歳になる大道寺智子は、義理の父である大道寺欣造の住む東京の屋敷に引き取られることになっていた。ところが、欣造宛てに智子を呼び寄せることはやめよという脅迫文が届いており、その手紙は19年前に月琴島で起こった日下部達哉という学生の事故死についても疑問を呈していた。

不安を感じた欣造は加納法律事務所を通じ、金田一耕助に智子の護衛と調査を依頼する。智子の後見人として月琴島に渡った金田一は、怪行者・九十九龍馬とともに、智子を伊豆修善寺のホテル松籟荘まで無事送り届けた。ここで智子の婿候補者3人と、謎の手紙に導かれた多門連太郎が登場し、いよいよ惨劇の幕が切って落とされたのである……。

本作は映像化もたびたび行われているので、映画やドラマなどでご覧になった方も多いだろう。事件の荒波に翻弄される主人公の女性をサスペンス要素たっぷりに描いている点は「三つ首塔」と似ているが、ヒロインとして登場する絶世の美女・大道寺智子の性格は大きく異なる。謎の青年・多門連太郎とのロマンスは女性の方がより楽しめるかもしれない。

それまでの作品に溢れていた陰惨なムラ社会的な要素があまり登場せず、金田一耕助もほとんど活躍しない本作だが、19年前に月琴島で起きた殺人事件での二重の密室トリックと、消えた蝙蝠の謎は面白かった。智子の家庭教師であり、いつも編み物をしている神尾先生の存在も印象深い。

物語は哀しい結末を迎えるが、真相を知った金田一の心温まる配慮は深い感動をもたらす。月琴島で迎える大団円は素晴らしい余韻を与えてくれるものだった。

<登場人物>
大道寺鉄馬 … 源頼朝の血を引くという大道寺家の先代。故人。
大道寺槙 … 鉄馬の妻。智子の祖母。
大道寺琴絵 … 鉄馬と槙の娘。智子が5歳の時に死亡。
大道寺欣造 … 琴絵の夫。婿養子。智子と血の繋がりは無い。
大道寺智子 … 琴絵の娘。月琴島に住む絶世の美女。
大道寺文彦 … 欣造と蔦代の息子。義理の姉である智子を慕う。
蔦代 … 大道寺家の女中をしていた。欣造の愛人で文彦の母。
伊波良平 … 大道寺家の執事。蔦代の兄。
神尾秀子 … 琴絵・智子の家庭教師。編み物好きの美人。
九十九龍馬 … 加持祈祷の怪行者。政財界にも影響力を持つ。
遊佐三郎 … 智子の婿候補者の一人。時計室で刺殺される。
駒井泰次郎 … 智子の婿候補者の一人。
三宅嘉文 … 智子の婿候補者の一人。
姫野東作 … ホテル松籟荘の使用人。絞殺死体で見つかる。
衣笠智仁 … 元宮様。ホテル松籟荘の前の持ち主。
日下部達哉 … 欣造の友人。智子の父。19年前謎の死を遂げる。
多門連太郎 … 謎の手紙に導かれた美貌の青年。智子に接近。
カオル … キャバレー「赤い梟」のダンサー。連太郎の知人。
加納辰五郎 … 加納法律事務所の所長。金田一に調査を依頼。
宇津木慎介 … 新日報社調査部社員。金田一の同郷の後輩。
工藤署長 … 下田の署長。
亘理署長 … 修善寺の署長。
安井刑事 … 修善寺の刑事。
等々力警部 … 警視庁捜査一課所属の警部。金田一耕助の相棒。
金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。ご存知名探偵。

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金田一耕助ファイル9 女王蜂

2014.11.29

横溝正史(金田一耕助)