宮崎駿監督が中学時代に読んで影響を受けたという江戸川乱歩の長編小説「幽霊搭」をテーマに、自ら企画・構成を行った新企画展示「幽霊塔へようこそ展 ―通俗文化の王道―」が、三鷹の森ジブリ美術館にて5月30日よりスタートしたというので、さっそく初日にお邪魔してきた。
この小説は、英国の作家A・M・ウィリアムスンが1898年に発表した小説「灰色の女」を翌年1899年に黒岩涙香が翻案し、新聞連載小説「幽霊塔」として発表。その38年後の1937年に、江戸川乱歩が独自の解釈を加え書き改めたもの。
宮崎駿監督は中学生の時にこの小説を読み、主人公たちの織りなすロマンスや、重要な舞台である時計塔の歯車やその機構に憧れ、深く記憶に刻まれたのだとか。長じてアニメーション作品を作るようになり、初監督した映画「ルパン三世 カリオストロの城」では、自分なりに考えた時計塔やロマンスを盛り込んで作品を作ったと語っている。
ジブリ美術館を訪れる前に、あらためて江戸川乱歩版「幽霊塔」を読んでみたのだが、古き良き時代の冒険怪奇小説といった感じですごく面白かった。長崎の片田舎に建つ古い西洋屋敷に、幽霊が出ると噂される複雑なつくりの時計塔。絶世の美女、野末秋子と出逢い。恐ろしい蜘蛛屋敷への潜入など、次々と登場する謎に魅了され、手に汗握る波瀾万丈の物語にどんどん惹き込まれていく。終わり方も実に綺麗で、読後感は爽やかだった。
本展示では館内中央ホールを大改造し、宮崎監督デザインによる巨大な時計塔が設置されており、その中の螺旋階段を昇り展示室へ向うと、宝物が隠された地下迷宮を思わせる迷路が子供たちを待ちうけている。さらにその先には、「ルパン三世 カリオストロの城」のジオラマまで用意されているという徹底ぶり。見逃してしまいそうな細かい仕掛けの数々に関心しつつ、ロマンあふれる世界観を堪能することができた。
また、作品の舞台となる時計塔を監督自らの書き下ろし漫画にて解説していたのだが、これが本当に素晴らしかった。江戸川乱歩版「幽霊塔」だけでなく、黒岩涙香版やさらにその原作にあたる「灰色の女」にも触れており、非常に読み応えのある内容。アニメ映画化した場合の妄想コンテまで緻密に描かれており、引退を撤回してすぐ制作に取り掛かってほしいと思った。
パンフレットがあったら是非手に入れたかったのだが、まだ展示が始まったばかりで出来ておらず、これから制作に取り掛かるという話だったので、仕方なくポストカードになっていた1ページだけ購入してきた。この幽霊塔内部の妄想解説だけでも、監督の思い入れがひしひしと伝わってくる。これから訪れる方は、展示内容をより楽しむためにも、ぜひ江戸川乱歩版「幽霊塔」を読んでから訪れていただきたいと思う。
なお、今回の訪問でもう一つ楽しみにしていたものがある。カフェ「麦わらぼうし」春の新メニューに登場した「わんぱく肉ボールをのせたナポリタン」だ。説明せずともピンとくる方が多いとは思うが、「ルパン三世 カリオストロの城」でルパンと次元が奪い合って食べていた例のやつである。想像していたのとは少し違っていたが、あのシーンを思い出しつつ食べることができて嬉しかった。
カフェ「麦わらぼうし」では他にも、ベーコンたっぷりのま~るいピザトーストや季節の実りのこんがりフルーツタルト、グラノーラをのせたカフェモカケーキ、定番のふわふわミルク入りコーヒーなど、ついつい欲張っていろいろ頼んだらお腹いっぱいになった。
しかし、今日は5月だというのに本当に暑かったなぁ……。