機動警察パトレイバー the Movie

2017.05.04  渡邉達朗

機動警察パトレイバー the Movie
今さらという感じもするが、時代が作品に追いついた今こそ、「王立宇宙軍」と同様に強く影響を受けた映画として、「機動警察パトレイバー the Movie」について書いておきたい。この映画が1989年に公開された際、自分はまだ中学生だった。劇場は満席で立ち見だったが、そんなことは全く気にならないほど作品に惹き込まれたことを憶えている。

まず、あらすじを紹介しておこう。1999年夏、自衛隊の試作レイバー(ロボット)が突如無人のまま暴走するという事件が発生する。しかし、それは相次ぐ事件のほんの幕開けに過ぎなかった。何者かが仕掛けたコンピュータウィルスによって、都内各所で作業用レイバーが次々と暴走。警視庁特車二課のはみだしポリスたちは姿なき犯人を追うが、その行方は杳として知れない。はたして彼らは、大型台風の接近による大規模なレイバー暴走を未然に食い止めることができるのだろうか……。

機動警察パトレイバー the Movie
口元に嘲笑をうかべた帆場暎一が投身自殺を図る、ミステリアスな場面からスタートする本作。すべての黒幕でありながら物語の開始時点で死んでおり、主人公たちの前に現れることは一切無いというキャラクター造形は、中学生だった自分にとってかなり斬新なものであった。

帆場は学生時代MITに留学しており、そこではイニシャルをもじってエホバというあだ名で呼ばれていたという。バベルの塔、ノアの方舟、洪水、獣の数字666など、本作には旧約聖書や新約聖書をモチーフにした暗喩が多いのだが、これもまた子供心をくすぐるものだった。

天才プログラマー帆場暎一が開発した「HOS」という新型レイバー用OSも本作の要となっている。Windows 95が発売される6年も前に、ロボット用OSの違いによる性能差やコンピュータウィルスによる暴走を、この映画の題材にした先見性はすごいと思う。「HOS」にアクセスしたときに表示される帆場のメッセージも印象的だ。

エホバくだりて、かの人々の建つる街と塔を見たまえり。いざ我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、互いに言葉を通ずることを得ざらしめん。ゆえにその名は、バベルと呼ばる

この映画には「バビロン」プロジェクトという東京湾埋め立て工事が登場するのだが、その湾岸基地の通称が「方舟」であり、主人公の名が「野明(ノア)」というあたり、聖書との符合は実によく出来ている。クライマックスで方舟の巨大な柱が「バベルの塔」のように見え、神の裁きが降ったかのごとく崩れていく場面では、自然と以下の一節が思い起こされた。

災いなるかなバビロン。その諸々の神の像は砕けて地に伏したり

機動警察パトレイバー the Movie
何年経っても忘れられないものとして、2人の刑事が帆場の足跡をたどり、東京の下町を延々と調べてまわるシーンがある。再開発によって消えゆく東京の古い街並みと、高層ビル群が立ち並ぶ風景とのコントラスト。特車二課の後藤隊長と松井刑事との間で交わされる、帆場に関する曰くありげなやりとり。

川井憲次の素晴らしい音楽はあらゆる場面で本作をより魅力的なものにしているが、とりわけこの場面で流れる曲は印象的だった。大阪で生まれ育った自分にとって、東京のイメージはこの映画で培われたような気がする。

最後にスタッフについても触れておきたい。「機動警察パトレイバー」という作品は、漫画家のゆうきまさみが構想していたものに、メカニックデザイナーの出渕裕、キャラクターデザイナーの高田明美、脚本家の伊藤和典らが次々に参加してヘッドギアというチームが作られ、最後に監督の押井守が加入して企画が進められた経緯がある。

押井は基本的なプロットが固まりつつあった時点での参加であったため、設定で気に入らない部分が多く、経済的困窮を救ってくれた作品という以外、パトレイバーにあまり思い入れはないと語っている。

二足歩行の巨大ロボットが活躍するなんてあり得ない、ほぼ全てのキャラクターが嫌いだったという押井だが、近年も実写化を手掛けているあたり愛憎相半ばなのであろう。個人的にはこれだけバラバラな面子が集まって、ひとつの作品が作られたことには大きな意義があったように思う。

ジェームス・キャメロンが絶賛したことでも知られる劇場版2作目の方がよりリアリズムを追求しており、押井守監督の演出手法を細かく記した資料「Methods」と併せて玄人からの評価は高いと思われるが、自分はやはりこの劇場版1作目が大好きだ。

娯楽の王道をいく作品でありながら、ロボットが登場する理由がちゃんと描かれているので作品世界に適度なリアリティがあるし、自衛隊のレイバー暴走やクライマックスシーンは迫力満点、事件の謎を追うサスペンスとしても非常に面白い。映画単体で観ても十分楽しめる作品なので、未見の方がいらしたらぜひご覧いただきたい。

コメントをどうぞ

CAPTCHA


機動警察パトレイバー the Movie

2017.5.4

テレビ・映画・演劇